改装工事 -考えた事①-

 こんにちは。月明設計室の中込です。

 今回は「改装工事」についてお話をしたいと思います。

  設計事務所として活動を始める前、リフォームが得意な会社におりました。設計と施工を行う会社におりましたので、私は設計を生業とする他の設計事務所の方とは少し違った視点で物事を見ているかもしれません。それが私の一つの特徴と言えます。リフォームを経験した数は100件以上になりますので、なかなかそれだけの数を経験している設計事務所の方はいないかと思います。負けない経験だと思っています。「リフォーム」とか、「リノベーション」とか、言い方がありますが、何となくその言い方が実は苦手です。日本人なら日本語をできるだけ使った方が良いのではと、「改装工事」と言うことが多いです。これも適当なのかどうかわかりませんが、カタカナ、英語だと流行り言葉のようで、どうも抵抗感を覚えてしまいます。住まいは流行で作ってはいけない。流行は少し取り入れるぐらいの程度が良いのではと。簡単には変えられないものに流行を用いてはいけないと思っています。私はこれから「改装工事」といいます。

 改装工事はすでに存在している住まいを相手に計画するので、既存の状況をどれだけ把握できているか、予測できているか、また不明な点は、どのように予測し、対応する術を考えておくか、設計力だけではなく、現場知識や経験、対応力が重要になります。スケルトン(見えている仕上げをはがして骨組みにした状態)にしてから計画するのは簡単ですが、実際はそういうわけにはいかないので、設計力だけでは追いつかない難しさがあります。私の友人には、そういった改装工事の経験を積んだ現場人間がたくさんおりますが、改装工事の現場の難しさを知っている人たちは、新築より改装工事の方がやりがいがあり、楽しいと言っています。それだけ改装工事の計画は現場で考える事の比重が高いという事なのでしょう。その為なのか、改装工事は設計施工で工事をしている会社さんにお願いをする方が頼みやすく安心できるというのが一般的な意識なのかもしれません。そこに一石を投じたいと思っているのが、私の立ち位置です。どうして設計事務所が存在するのか。いい住まいをつくる為に設計事務所が存在します。設計は簡単ではないのです。時間がかかるのです。住まいを見つめ、暮らす人を見つめ、そこに在る豊かさをとらえ、最善の答えを見つけていく。全体と部分を反復するようににらみながら少しずつ調整を繰り返し決定していく作業は、時間と労力と体力が必要です。そこを怠ると例え同じ間取りであっても全く異質な住まいになってしまうと思っています。ここをしっかりできるようにする為に、私は設計事務所という生き方を選びました。

 川崎の住まいは、昨年完成した鉄骨造3階建ての2階部分にある洗面所と御手洗を改装した計画です。洗面所と御手洗だけなのですが、侮らないでください。考える事がたくさんあります。ここでは御手洗と向き合った時間をご紹介します。計画した御手洗は1畳サイズの奥に長いよくある構成です。ご要望は便器をタンクレスに交換し、手洗いを付けたいという事とトイレ換気扇を交換したいという事、そして仕上げには珪藻土とタイルを使用したいという具体的なご希望ありました。

現地調査後、この計画で私が考えた大きな項目は下記になります。

考えた事

1.最適な手洗器を選定する…既存部分との兼ね合いで設置できる手洗器は種類が限られており、カウンター上に設定するタイプの中から、できるだけ狭苦しさを生まない手を洗う部分の口は広く、下に行くにつれて斜めに狭まっていくタイプを選定しました。そうする事で設置するカウンターの奥行きが最小寸法で計画できます。

 選定した手洗器はカウンターに埋め込まれる部分があり、その部分を欠き取りしなければなりません。なおかつ埋め込まれる部分の詳細な寸法が承認図には出ておらず、予測しながらの作業だった為、苦労しました。造作で作る場合には、普段やらない事をやる事が多い為、水回り設備の詳細な情報が公開されているかどうかは重要だったりします。意外と大変で手間がかかります。

2.給排水ルートの確保…手洗器の給水排水管を既存の配管につなげる必要があるので、そのルートを調査しました。木造とは異なり鉄骨造は床下に簡単には配管を落とせないので、給排水ルートを確保するには十分な調査が必要です。幸い今回は、配管スペースがある事がわかっていたのと、下階の収納部分から覗ける位置だった為、うまく計画する事ができました。

 手洗器の給水排水管はカウンター下に降りてから横に伸びていくルートになり、その配管をパネルで隠すよう計画しました。メンテナンス性を考えパネルは簡単に脱着できます。

3.収納スペース確保…カウンター下を走る配管スペースをよけて、収納スペースを計画。手洗器下に掃除用具を入れるスペースを確保し、ここでは手拭きにタオルは使用せず、ペーパータオルを使用するとの事だったので、使用後のペーパータオルを捨てる為のゴミ箱を便器脇の部分に計画しました。箱が絶妙な角度で便器に当たらないで開きます。またゴミを投入する口の上下を斜めにしているので、ゴミが入りやすくなっており、この部分に手をかけて開けられるようになっています。見た目もすっきり、うまくいきました。家具屋さんの丁寧な仕事です。感謝です。

4.便器に座った時の狭さを感じさせない工夫:便器に座ると足は少し開いた状態になるので、横幅が必要になります。カウンター収納の機能面を満足しながら、できるだけ奥行きを下に行くにつれて浅くし、足元は収納を浮かせる事で、足が入るようにしています。

5.紙巻器、ウォシュレットリモコンの位置:地味に一番時間を要しました。カウンター収納ができる事による横幅の狭さを考慮し、カウンター収納の中に紙巻器とウォシュレットリモコンを組み込み、反対側の壁はスッキリ何もない綺麗な珪藻土の壁にしました。紙巻器はカウンター下に取り付けるタイプとし、トイレットペーパーの出し入れの動きと装着時のふくらみを考慮しながら、取付位置と寸法を決めました。ウォシュレットリモコンはすっきりしたスティックタイプとし、正面と上に操作ボタンがついているので、取り付け方を注意しながら、操作しやすい位置に計画しています。スティックリモコンの承認図に詳細な寸法の記載がない為、計画に苦労しました。

6.窓下にある収納の見直し:窓下にある既存収納は、天板が上開きになっていた為、その上に物を置いたままだと蓋が開けられない状態でした。便器をタンクレストイレに交換する事で本体の高さが低くなり、収納の扉を開き戸にしても当たらない事に気付き見直しました。これは収納の使い勝手の悪さに気付き、どうにか改善する方法がないかと関心を寄せ続けた事によって、新たな方法に気付く事が出来たのだと思います。物事はどんなことでもまずは関心を寄せ続ける事が大事なんだと思います。

7.プラスチック素材を隠す:トイレ換気扇の表面はプラスチックでつくられているものがほとんどです。プラスチックは経年変化で黄ばんでいきます。せっかく自然素材を使い、素材感のいい設えになる計画だったので、換気扇が見えなくなり、存在を消すような計画としました。

8.最後に意匠について:手洗いを計画する事で、必要となった造作カウンター収納は、多くの機能と技術を詰め込みながら、意匠面でも工夫を加えています。のっぺりとした箱ではなく置き家具のような表情の豊かさを出す為にカウンター材等の小口面にR加工を加え、凹凸の表情と無垢材らしい味わいを醸し出しています。そして何よりこの場所を心地よくするために、仕上げに用いたタイルや珪藻土の素材を生かすよう、できるだけ余計なものがないピュアな壁や天井をつくるよう努め、素材感の良さを感じやすくしました。天井の一部を小さなR天井にしたり、照明の存在を消して間接照明としているのも、素材の良さを引き立てる為の工夫の一つです。

 改装ならではの制約のある中で、できる最善の答えを、考えて、考えて答えを出した結果、完成するとその苦労の痕は、影を潜めます。それで良いのだと思います。違和感がないのだと思います。違和感がないのは良い事だと思います。寸法を正しくするのが、設計者の仕事です。違和感があってはならないのです。良い設計をするには時間が必要です。知識や経験、忍耐や体力、そして何より、住まいを正しくする眼差しと思いが必要です。

 新築はもう少し俯瞰的な視点で、ものづくりがはじまります。現在工事中の江東区古石場の木造3階建ての現場は、大工さんが木完し、仕上げ工事に入ろうとしています。下町の密集した住宅地、中庭をつくる事で、室内に自然光を導く計画です。

良い感じです。完成がたのしみです。

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椅子を置いてみた 大きな掃出し窓のそばに なんだか居心地良さそう 見るような眺めはないけど空が見える 直接ひかりがあたってないのに 明るくて 爽やかで 清々しい 椅子もうれしそう ちょっと休憩したり 本を読んだり お茶を飲んだり そこで過ごす時間がお気に入りになった 縁側のような場所ができた - そこに在る豊かさ ささやかないい時間 いい住まいのご提案をさせていただきます -  

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