改装工事-考えた事②-

 こんにちは。月明設計室の中込です。

 今回は「川崎の住まい」の洗面所のお話です。

 ご要望は洗面所とその隣にあるユーティリティを使い勝手が良い素敵な場所にしてほしいという事でした。現地を確認した所、洗面室には窓がなく、照明を付けないと成立しない様子。隣のユーティリティには引き違いの窓が1か所あり、北側ですが2階で通りに面しているので、一日中安定したあかりがありました。

 最初のご提案では、その北側のあかりを洗面所でも感じられるよう、洗面所とユーティリティを間仕切っていた壁と引き戸をなくし、一室にするご提案をいたしました。

 せっかくだからもう少し思い切った提案がほしいという事になり、次のご提案では、洗濯機の位置を思い切って大幅に移動し、大きな洗面化粧台を計画するご提案をしました。

 長さ3.5mの大きな洗面化粧台の計画です。なかなかないですよね。自称「日本一長い洗面化粧台」です。大筋はこの案でいきましょうという事になり、細かい仕様の打合せに入りました。

 仕上げに用いる素材や使い勝手を細かく検討し、諸問題を解決しながら、この場所に一番ふさわしい場の在り方をご要望を鑑みながら私なりにイメージした完成予想図は下記のようになりました。

考えた事は下記のような事があります。

1.排水ルートの計画 …洗濯機の位置を変えているので、排水の計画にあたっては、設備屋さんとも確認をしながら決定をしていきました。鉄骨造の住まいなので、床下で排水をおさめる事が難しく、床上で排水ルートを計画しなくてはならない為、洗面化粧台を浮かせたような意匠にしつつ、足元に排水ルートを確保しています。

2.段差解消…新しい洗濯機の位置は、床から20㎝程度上がってしまう為、そのままですと洗濯機の使い勝手が悪くなってしまいます。(全自動洗濯機を使われているので、底の洗濯物が取れなくなってしまう。)そこで、踏台を計画しました。だだの踏台だと使わない時は邪魔になってしまうので、隠せるような踏台を計画。

 20㎝上がった床下に隠れる踏台です。足で前板を押すと飛び出してきます。そして人の重さでしっかり固定するアップダウンキャスターという金物を使用しています。(奥様より使い勝手も上々との事)。

3.換気ダクトルート計画 …衣類乾燥機を使われていた為、洗濯機と一緒に移動しています。(最近、衣類乾燥機を使われている方が増えていますね。計画する事が多いです。特に共働きのご家族には、重宝されています。)

 衣類乾燥機についている排気ダクトが丸見えになるのは、この場所には相応しくないと思い、ダクトルートの天井を全体的に下げ、その天井内にダクトを隠しています。下げた天井には全般照明となる間接照明が仕込んであります。

 天井点検口は、衣類乾燥機とダクトを接続する際、ここから覗いて取り付けています。メンテナンスもしやすいつくりになっています。

4.室内干し計画 …一番悩んだ所です。綺麗な場所に相応しいモノを探してもなかなかしっくりこない。綺麗にまとまった計画なので、存在が邪魔をするような部材を付けたくないと思い、「ないなら作ればよい。」と室内物干しとタオル掛けをセットで、制作しました。以前、困ったときに快く制作していただいた静岡県の「アイアンクラフトじんぱち」さんにつくっていただきました。丁寧なお仕事をされています。

 強度や溶接具合、径の大きさ等、見え方や見せ方、こちらの希望と、制作側の都合を打合せしながら、素敵な物干し金物をつくっていただきました。

 静けさを邪魔しない、馴染む、機能性と耐久性を備えたオリジナルの一品モノです。

 また大きな分電盤が二つ近くにあり、箱で隠してスッキリさせようと考えていた為、その箱の扉が物干しに干渉しないよう絶妙な寸法でかわしています。シビアです。

5.内装仕上げ 壁・天井 …仕上には珪藻土をというご要望がありました。珪藻土は水には弱いので、直接水気のあるモノが触れる場所には使用できません。自然光や照明の光があたる部分には珪藻土を使用し、タオル掛けや洗濯機まわりは珪藻土の色に近いクロスを用いました。珪藻土とクロスの切り替え部分には雰囲気を損なわないよう白くて細い金物を用いて縁を切っています。

天井面の角をアールトし、自然光や照明の光が綺麗に壁に伝わるように計画しています。左官仕上げならではです。

6.タイル貼り …床や壁にタイルを使いたいというご要望もありました。洗面台は長さ3.5mありますので、部分的な改装工事で、その長さのカウンターを一枚モノで搬入する事はなかなかできません。天板もタイルにすることで、継ぎ目のない一枚のカウンターのような意匠としています。

 洗面台に使用したタイルは、小さめで形状がいくつか選べ、素材感が素焼きのようなタイルです。光があたると表情が変わります。また洗面カウンターより一段上がった時計や小物が置ける台のような部分には、モザイクタイルを使用し変化を付け、角をアールにする事で天井のアールと合わせています。

7.引き戸の計画 …既存の扉は開き戸でした。洗面所ユーティリティー以外の部屋は、いじらないので、既存の扉の枠材はそのまま残しました。枠は残しながら、扉を撤去し、そこに新たに引き込み戸を計画しています。

8.照明・コンセント計画 …存在を消すようにできるだけ見えない位置に計画しています。だだし使い勝手が悪いと意味がないので、ちゃんと適材適所に計画をしつつ、存在を控えめに。

9.換気扇隠し格子ルーバー …洗面所には天井に換気扇が付いており、新しく交換すると共に、天井内に埋め込み、格子で隠しています。換気扇のプラスチック素材感が消え、天井面の珪藻土の良さが引き立ちます。雑音となるようなものはより少ない方が、感じたいものが素直に感じられるようになります。

 


 機能として必要なものをしっかりおさえながら、大切にしたのは、あくまで自然光です。北側の光は他の面より安定しています。それでも気候や季節や時間により変化を繰り返すのが自然光です。その変化が室内に潤いを与えてくれます。喜びを与えてくれます。自然光を一番良い状態で感じられるように考えた計画となっています。

 改装工事は既存の状態を調べる事が大切です。それは技術的な面からだけではなく、住まいの雰囲気を知るためでもあります。新しい要素が既存の住まいにどのように新しさと同時に馴染んでいくのかという視点も大切です。

 住まいのほんの一部の改装工事です。それでも考える事はたくさんあります。簡単には見つからない答えも、諦めずにじっくり考え、答えを見つけていく。そうすると「思い」が「形」となって現れてきます。それ程、考えていなくても「形」はつくれます。でも、考えている「形」は何か違うのです。「思い」は時間の経過と共に、その場所の空気や気配に影響を与えます。「気」が良いのです。小さな「思い」は、いずれきっと大きな「力」になります。

 丁寧に、ひとつずつ問題を紐解いていくのが、設計です。設計は時間のかかる仕事です。商業主義に走り、効率を求める事も簡単にできるのですが、それでは「思い」は伝わらない。「思い」の量が少ないからです。それでは意味がない。人に「愛される住まい」には、人の「いい思い」が必ずあります。「思いの集積」が住まいと言っても良いかもしれません。

 まもなく完成する住まい。

 たくさんの「思い」が、いつの日か大きな「力」になってくれる事を信じています。

 楽しみです。

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椅子を置いてみた 大きな掃出し窓のそばに なんだか居心地良さそう 見るような眺めはないけど空が見える 直接ひかりがあたってないのに 明るくて 爽やかで 清々しい 椅子もうれしそう ちょっと休憩したり 本を読んだり お茶を飲んだり そこで過ごす時間がお気に入りになった 縁側のような場所ができた - そこに在る豊かさ ささやかないい時間 いい住まいのご提案をさせていただきます -  

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