北海道散歩③-札幌聖ミカエル教会-

 こんにちは。月明設計室の中込です。

 前回からの続き。北海道散歩三日目。朝一番で訪れたのは札幌市内にあります札幌聖ミカエル教会。

 今から60年前、1960年にアントニン・レーモンドが設計した北海道に残る唯一の教会です。施工したのは竹中工務店。そしてその竹中工務店の担当者が、北海道散歩① でご紹介した上遠野 徹さんです。自ら志願して担当されたそうです。上遠野さんにとってこの教会を担当した事は、後の自身の設計にも大きな影響を与えました。レーモンドのディテールを大切にした緻密な設計に共感を覚えたのだと思います。そして素材を大切に、素材の持つ表情、年月の風化に耐える力、大切な事をレーモンドから学ばれたように思えます。上遠野さんはレーモンドのディテール集の本を大切にされていたそうです。そのレーモンドはこの教会の設計を無償で引き受けました。予算がなく、事務所としてではなく、個人として設計を引き受け、実施設計と工事はすべて上遠野さんに委ねました。完成後、はじめて教会を訪れたレーモンドはよくできていると上遠野さんを褒め称えたそうです。

 教会入口の脇にあるレンガ壁に貼られたプレートには、レーモンドの名前と、よく見ると一番下に上遠野さんのお名前が刻まれていました。こういう風に工事に携わった人の名前が残り、年月を経て、私のような人間がそれを目にする機会があるというのは、何だかいいものですね。このプレートを通して、いい形で人の思いが残っていくような気がしました。

 室内は木造の丸太を使った小屋組みが特徴的な祈りの場。大きな空間を木造でつくる時には小屋組みの考え方が大切になります。以前、私も教会の設計をした事があるのでその難しさがわかるのですが、柱のない大きな空間をつくる為には屋根をつくる小屋組みで解決しなければなりません。また教会のようにたくさんの人が集まる場所では、天井高さも必要。室内中央に視線が集まるので、できるだけ中央を開放的に計画したい。木造では柱の上に水平な梁を載せる事が一般的ですが、水平な梁だと高さを稼ぐ事ができないので、登り梁(屋根の勾配と同じにする)にする。そうすると登り梁が壁に接する部分で壁を外方向に押し出す力が強くなる為、それを抑えるような事を考えなくてはなりません。この力の作用をよく考えて設計しなければならない、ここに設計者の大切な考えや、表現力、力量が出てくるのです。

 レーモンドは木造さしさと空間のひろがりを無理なく丸太を使って表現しています。中央の一番高くなっている部分から急勾配な切妻が下がると勾配を緩くし外側へ。中央の象徴性を高めながら外へと力を流します。一般的に木材の流通材はトラックで運ぶ事を考えると長くて6m。予算も厳しかった事を想像するとその6m材で最大限効果的な広がりを作ろうと試みているように思えます。ボルトで緊結された小屋組みはトラスとなり、力をうまく分散しながら、両サイドのRCスラブへ、そしてその下の斜めに連続配置されたレンガ壁へと荷重を流します。レンガ壁の外には控え壁があり、小屋組みが壁を外へ押し出す力に備えています。言葉にすると伝わりずらいかもしれませんが、要はよく考えられており、表現したい事と構造として必要な事が、違和感なく、無理なくまとまっており、簡単には真似できないような事を簡単にやっているような気がする不思議な教会です。

 表現力の強い木組みの小屋を斜めに連続配置されたレンガ壁で受けるという大変な事をサラッとやり遂げている。でもそれぞれを構成する素材が表情豊かなので、冷たい感じがなく温かく人を守ってくれるような包容力があります。鉄やコンクリートは表現が自由で比較的簡単に大きな空間をつくる事ができますが、人肌にやさしい表情はつくりづらい。表面だけを装ったものとは異なり、木やレンガはそのまま仕上となり構造となり人に安心感を与えてくれる。それぞれ素材には特徴があり個性があります。その素材らしさを大切に、その場所に相応しい素材の扱いをする事で、素材が生きてくる。そうするとその先に長い年月にも耐えうる表現と、人に親しみや愛着、その場所になくてはならないものへとなっていく力を備えるのではと思います。

 使われている丸太とレンガはどちらも北海道産。丸太はとど松。松なので粘りに強く梁に向いています。レンガはおそらくですが野幌レンガでしょうか。上遠野さんのご自宅を伺った際、野幌レンガの事を教わったので、おそらく。表面だけの薄いタイルのようなものではなく、表情豊かな厚みのあるレンガです。上遠野さんはレンガの目地はかならず深目地。レンガの厚みがないとできない表現です。地域の材を用い、地産地消でものづくりができるとまたその建物に対する見方、愛着心も変わってきます。いいですね。

 レンガと言えば、フィンランドのアルヴァ・アールトの事を思い出します。アールトはレンガを自然素材と同様に扱ったそうです。レンガは長い年月の経過と共に、表面の灰汁が抜け、自然と一体となり馴染んでいくような所があります。またレンガづくりに用いられるその土地の土、原材料や配合、焼き方によって色や表情も様々。同じようにつくろうと思っても再現できないような焼き物の面白さがあります。いい素材なので、工法やコストの問題で、なかなか手が出しずらい所はあるのですが、いつか機会があれば、取り入れたい魅力的な素材です。

 レーモンドと上遠野さん。その姿勢や真面目さ、真摯に向き合う事の大切さを学ぶ。世の為、人の為、地球の為につくり手は様々な事に真面目に向き合わなくてはならない。その事の大切さを改めて教わったように思います。

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椅子を置いてみた 大きな掃出し窓のそばに なんだか居心地良さそう 見るような眺めはないけど空が見える 直接ひかりがあたってないのに 明るくて 爽やかで 清々しい 椅子もうれしそう ちょっと休憩したり 本を読んだり お茶を飲んだり そこで過ごす時間がお気に入りになった 縁側のような場所ができた - そこに在る豊かさ ささやかないい時間 いい住まいのご提案をさせていただきます -  

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