北海道散歩①-上遠野徹自邸-

 こんにちは。月明設計室の中込です。

 北海道に行ってまいりました。GoToトラベルを使ってお得に。だいぶお得です。北海道に行くのは今回で2回目。本当に綺麗な所です。今回は札幌市を中心に見てみたい場所や訪れたい場所をリストアップし、いつもぎっちぎちで予定を組んでしまいヘトヘトになるので、少し余力を持って街を散歩するような気持ちで訪れました。

 以前から北海道に行きたいと事ある毎に呟く私の妻にとっては念願の場所。前回訪れたのは夏だったので、秋の北海道を堪能しに。仕事がひと段落するタイミングで、思い立ったようにGoToトラベルの恩恵に預かろうと計画をし始めたところ、行きつけのジュンク堂で偶然見つけた本がとても参考になりました。

 完全に呼ばれてます。9月に出版されたばかりの本です。札幌市内だけでもたくさんの魅力的な建築があります。そして、深い感銘を受ける事になる素晴らしい住宅に、この本をきっかけに訪れる事ができました。

 朝5時4分、藤沢駅を始発で出発。羽田発6時45分の飛行機で千歳空港に8時20分着。レンタカーを借りて札幌市内へ車で約1時間。

 訪れたのは建築家 上遠野 徹 自邸。北海道を代表する建築家の自邸です。2003年に日本の近代建築遺産としてDOCOMOMO100選にも選ばれた有名な住宅。

 中村好文さんの本「建築家のすまいぶり」にも掲載されており、ご存命だった頃の上遠野さんと中村さんの対談を読む事ができます。運が良くご子息の建築家 上遠野 克 さんにご案内していただける事になり、夢のような時間を過ごしました。

 大きな国道から一本脇に入り、緑で囲まれた敷地内に入るとそこは別世界。日本にいるような気がしません。鬱蒼と茂った緑は唐松等の落葉樹が少し色付き始めている。巨大になった木々は住宅地ではなかなかお目にかかれないような大きさです。連続する木々に導かれるように敷地内にある上遠野さんの事務所へ。辺りは大きな木々で目隠しされ、見えるのは、透き通った青空と手入れの行き届いた芝、紅葉した大きな木々、そんな敷地に佇む事務所と住まい。余計なものはありません。見慣れている木造の住まいとは異なるモダンな佇まい。びっくりするような世界が何気もなくそこにあるのです。

 上遠野さんのご説明を受けながら、敷地内を散策するように住まいへ。人当たりの良い穏かな上遠野さんのお人柄に、違和感なくすぐに親しみを覚えながら、落ち葉拾いが大変な事を伺ったり、夏は週一で芝刈りをしている事を伺いながら、この場所に愛着や誇りを持たれている事を間接的に感じ、平和な人の居場所がそこに在る事を感じる事ができました。

 住まいが建てられたのは1968年。いまから52年前です。もともと竹中工務店に勤められていた上遠野徹さんは、その頃のつてで、コルテン鋼を構造に用いたり、味わい深く真似できない風合いをもったレンガを外装に使われています。上遠野克さんも(通常の)住宅ではないような事をしていると住まいについてお話されていました。

 少し建築好きの方でないとわからない話なのですが、外観はミールファンデルローエの影響を感じます。メインのファサードと私は玄関先のステップで感じました。綺麗なステップです。よく見ると鉄骨で持ち出しているのがわかります。そして後から気が付いたのですが、ステップの手摺は後から付け足したようで、モノクロの写真には手摺はありません。全く違和感なく付け足されています。

 上遠野徹さんは桂離宮がお好きだったそうで、出る本はほとんど購入されていたそうです。(私も好きです。)外にあるたたきのスペースは桂離宮の月見台をイメージして作られているとの事。

 後から増築された2階建て部分は、ルイスカーンの影響を。そして自邸らしい実験で試みた表情の違うレンガを積み上げた塀を見ると、アルヴァアールトの世界を見るような気がしました。すべてが崇高で純粋に美しくつくられている。モダニズムのいい時代を一度にたくさん感じ取る事のできる場所です。やはり人は意識的に、無意識的に、同じ時代や先時代のいい影響を受けながら、自らの世界に昇華していく作業が必要なのだと思います。

 そして室内へ。天井高の低いコンパクトで木視率の高い玄関を抜け、リビングへ。

 とても素晴らしい。見とれてしまうような世界があります。そしてまたちょうど良い季節のちょうど良い時間に訪れたので、木々の揺れに合わせ、陽光がゆらゆらときらめくように室内に差し込んできます。障子を閉めるとまた繕った新しい障子紙部分と元々の障子紙との色の差も合わさって素敵な表情を見せてくれていました。

 上遠野さんのお話では、ちゃんと採寸していないとの事でしたが、鉄骨の柱のスパンが間口5.5m、奥行6mとの事から想定するとだいたい室内は三間角(5.46×5.46m)ぐらいの広さで、椅子を置く場所や家具を設置する場所が、いくつもあり、人の居場所がたくさんあるいい広さです。吉村順三さんが三間角が理想的な広さという話をされていたのを思い出しました。天井高は2.2m。隣にダイニングがあり、大きな引き戸で部屋と部屋を仕切ったりつなげたりできるようなつくり。ここも吉村順三さんの自邸と同じだと後から思い出し、吉村さんの影響も受けていたのではと思いました。

 年々だんだんと、居心地の良い大きさというのは、特に日本人の背丈や暮らし方にとってこのぐらいがいいのではという所は、設計する人が違えども共通事項がたくさんあると、肌感覚で学びます。ですが、その大きさは一般的ではないので、体感して頂き、理解して頂くしかないのです。恐らく数値だけでつくるとうまくいかないからだと思います。縦横奥行き、バランス、プロポーション、そういう目を持っていない人がつくるとうまくいかないから一般的にはならないのかと思います。

 リビングの特等席に座らせていただき、しばしお話を聞きながら、外の景色に目を奪われておりました。

 隣のダイニングは小さなスペースですが、テーブルを家族が囲み食事をするスペースとしてちょうど良い大きさ、居心地の良いスペースです。これぐらいがいいなと思う広さです。

 そして驚いたのは、室内にあるものの状態の良さでした。家具は当時から変わっていないとの事。写真はないのですが、ダイニングにある食器棚はとてもきれいな飴色のつやつやな状態。動きも問題ない。築52年です。狂いが出たりしていてもおかしくない。関東とは異なる気候、温度や湿度が関係しているのでしょうか。特に湿気の多い場所からきた人間にとって北海道のカラッとした気候は木々を見ていても違いを感じるので、何かしら起因しているのではと思ってしまいます。

 外観とは異なり、室内は和を感じる設え。日本人には馴染みやすく落ち着きます。天井の木は元々はヒバを使われていたそうですが、現在はシナとの事。無塗装です。床は床暖房が入っており現在はコルクですが、当時は塩ビタイル。床暖房に対応できるものがそれしかなかったそうです。窓はコルテン鋼でつくられたサッシでペアガラス仕様。お庭に面した所には外壁はなく全面窓ガラスですが、結露はないとの事。サッシの気密性がそれ程高くなかったのとサッシと障子との間がちょうど空気が動くのにいい程合いだった為、結果として結露がなかったのではというお話をされていました。名前を忘れてしまい大変残念ですが、壁は和紙を貼ったような素材を使われています。(…教えて頂いたのにすみません。)

 北海道の気候風土に合わせ、厳しい寒さにも耐えられるような住まいづくりを真摯にされている事がよくわかります。大変勉強させていただきました。

 名作と呼ばれるものは一つ二つ、良い所があるという事ではなく、すべてがうまくいっているから名作なのだと思います。北海道という美しく厳しい恵まれた自然環境の中で、北海道らしい住まいの在り方を真摯に取り組んだ結果がいい方向にすべてがまとまったのだと思います。本当に質の高い、作り手の思いが行き届いたいい住まいを体感させていただきまいた。

 幸運にも、その後、上遠野さんの事務所にもお伺いさせていただき、上遠野克さんの手掛けられた建築のお話を伺ったり、北海道ならではの家づくりのお話をお聞きでき、私にとってはかけがえのない時間でした。またその事務所から見た外の景色は忘れられないものになるでしょう。とても美しい景色でした。夢のような場所です。

 本当にありがとうございました。より一層精進して頑張ります。

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椅子を置いてみた 大きな掃出し窓のそばに なんだか居心地良さそう 見るような眺めはないけど空が見える 直接ひかりがあたってないのに 明るくて 爽やかで 清々しい 椅子もうれしそう ちょっと休憩したり 本を読んだり お茶を飲んだり そこで過ごす時間がお気に入りになった 縁側のような場所ができた - そこに在る豊かさ ささやかないい時間 いい住まいのご提案をさせていただきます -  

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