– 東京散歩 –

こんにちは。月明設計室の中込です。

 今回は ‐東京散歩 – 。なかなか見に行く事のできなかった展示会へ。世の中が様変わりしてしまい、見に行けないかと思っていたのですが、嬉しい事に会期延長され、ようやく先日行ってまいりました。「㊙展 めったに見れないデザイナー達の原画」展です。

 もう数日で終了となってしまいますが、東京ミッドタウンのガーデン内「21_21 DESIGN SIGHT 」で行われております。こちらの展示空間を設計したのは安藤忠雄さんです。建築に詳しい人は、打ち放しコンクリートを見るだけで安藤建築だとわかります。仕上がりはもちろんですが、コンクリートを流し込む際に、跡となって残るピーコン(丸穴)のピッチが綺麗に揃っているのです。間隔が美しいのです。コンクリート打ち放しの建築はコンクリートを流し込む際に用いるパネルの形とピーコンが跡となって残ります。壁の長さや高さは、必ずしもこのパネルの大きさに合わせて作られているわけではないので、端っこの方をみるとピーコンの位置が他の位置と等間隔になっていない事が多いのですが、安藤建築は抜け目なく揃っています。些細な事かもしれませんが、この小さな事ひとつで、その建物の質みたいなものが変わってくるのです。求める姿とパネル割りの調整を繰り返し、隅々まで考え抜かれた人の強い意志みたいなものを感じ取る事ができます。打ち放しコンクリートが仕上になっている建築は壁を見ると、設計者の力量がすぐにわかってしまいます。

 緑化された敷地内の遊歩道に沿って二つ並べられた細長い建築。三角の幾何学形態を纏った姿が特徴的な建築です。外からは想像できないような開放的な空間が室内へと続きます。

 安藤建築らしい人を驚かせるような開放性のある空間。単純で簡単そうに見えるかもしれませんが、技術の必要な大変な事を簡単そうにやって抜けるのが、安藤さんらしさです。何メートルあるのかもわからないような横に細長いFIX窓。窓上のコンクリートを支えるのに頑丈な鉄筋が中に隠されているはずです。

 細長い通路の先から光を感じる場面。コンクリート打ち放しは表面の仕上が少しつるっとしているので、自然光に照らされた時の光の伸び方が他の素材にはない印象的な表情となる特徴を持っています。冷たさと重たさを持ち、無機質だからより有機質な自然の光を美しく印象づけてくれます。見上げると階段の脇からスリット状に自然光を感じる事ができます。この光の為に、階段は片側から持ち出され、相当な鉄筋を組んで仕上げられています。公共建築だからこそできる建築です。

 照明計画も勉強になります。大きな空間ですが照明の存在をほとんど感じないのです。壁や天井に必要に応じて照明を計画するとこの空間に異物のようにぶつぶつと存在を主張するのですが、間接照明でその存在すら感じさせない計画となっています。もちろん展示室には展示物をしっかりと照らす強い照明はあるのですが、こういった美術館や博物館の照明計画が人にどのような小さな影響を与えるのか、どのように計画すると照明の存在を消しながら、必要な照度を保つ事ができるのか、その場所の体験だけが残るような計画の在り方、その重要性を改めて感じる事ができました。

スリット窓越しに見えた外の世界。穏かで平和な美しい景色が見えました。

 そして、お目当ての企画展では、著名なデザイナーそれぞれの創作の仕方、考え、取り組みを見る事ができました。

 家具デザイナーの小泉 誠さん。建築家の中村好文さんの所で学ばれていたというだけあって、遊び心を感じる小泉さんらしい手仕事で、ものづくりを楽しみながら、創作されている様子がわかります。展示物も一番楽しげでした。これほしいという物がたくさんありました。

 グラフィックデザイナーの原 研哉さん。原 研哉さんの展示コーナーでは大きなスクリーンで作業風景を映像で見る事ができるのですが、能の面のような顔?を何枚も何枚も少しづつ異なる表情の顔を手書きで書いている映像が流れていました。大きな会議室のような所で一人もくもくと作業しているシーンです。手にしっかり納まったシャーペンを用い、何度も何度も線を少しづつ足しながら繊細に絵を描いていくものづくりのシーン。手に納まっているシャーペンがとても気になり写真をパチリ。帰りに寄った東京ミッドタウンの伊東屋で偶然、同じものに遭遇。ドイツ製のカヴェコというメーカーのもので、限定色が売っている。思わず買ってしまう衝動にかられましたが、妻に止められ断念。…そうですね、良い万年筆を買ったばかりですものね。いつか、いつか。

 照明デザイナーの面出 薫さん。一番の収穫でした。お恥ずかしながら初めて存じ上げたのですが、東京駅の照明計画を手掛けられている検討スケッチが展示されていました。100年前の赤レンガの駅舎再生に伴い、ふさわしい夜間景観を、奇をてらうことなく丁寧に、穏かな景色の創出するという考えで計画されたそうです。建物の外観にトレペを乗せ、色温度で塗り分けられた照明計画。照らされた建物全体の様子を想像し、バランスを見て修正を加えていく。建物を照らす照明計画自体、普段あまりない行為ではありますが新鮮で勉強させていただきました。

 また、旅先で書いたスケッチが多数展示されていたのですが、とても興味深く拝見させていただきました。照明や建物だけではなく、そこで暮らす人々の様子をたくさんスケッチされていたのです。その時、スウェーデンの建築家ラフル・アースキンを思い出しました。アースキンは設計段階でスケッチを書く際、人物を中心に書くのです。ほとんどの建築家はスケッチを書く際、人物はスケールを確認する為にシルエットを書く程度、主役はあくまで建築です。アースキンは人物を中心に据え、表情豊かに書く。その人が主役であるという姿勢の表れと通じる部分を感じたのです。

 『建築をデザインする時、visionalismを大切にしているからです。人々が建物の内部をどのように歩き回るか、何を感じ、どんな経験をするのか。親密な場がどうつながれるのか。空間のなかで、様々な経験ができる事が大切だからです。』ラフル・アースキン

 形に直接現れる事はないかもしれませんが、そういう人の考えや姿勢はとても大切だと思っており、何かいいなと思えるような場所や物の体験をした時は、形だけではなく、その裏に潜む考えや姿勢が人に伝わっているのではないかと思っています。人の思いや人柄を場所や物から感じる事があるかと思います。それは同じものだと思います。

 そしてお目当てだった建築家の内藤 廣 さん。全く次元の異なる方ではありますが、私自身がとても影響を受けている建築家です。(さきの安藤 忠雄さんにもとても影響を受けております。)私が能率手帳を愛用したり、Vコーンの青ペン(内藤廣さんは赤ペン)を良く使っているのは内藤さんの影響です。…手帳もペンも自身と相性がよかったので。

 人の手帳の中身を見る事は普段ないので、覗きみるような感じで見ていました。おそらく手帳に書かれているスケッチや言葉を展示しているのだと思いますが、それはほとんど持っている本に掲載されていたので、予定ばかりじろじろ見ていました。どのような予定と動き方をしているのか。めったに見れない展ですので。

 もう2年程前になりますが、内藤廣さんの講演会に行った事があります。軽井沢の吉村順三さんが設計した脇田邸で行われました。その時のお話が良かったのです。

『夕暮れ時にウィリアム・カーチスが話した言葉が忘れられない。建築は弱い。建築は絵画や彫刻や音楽に比べ、弱い力しかもたない。弱いけれど持続的に発っせし続けられる。ずっと伝え続けられる。50年、100年と。空間から伝わるのは、弱いメッセージだけど、住宅という長い時間を過ごすものには、すごい力だと思う。』内藤 廣

 この言葉が忘れられず、事ある毎に思い出されます。建築の弱い力を信じているのだと思います。設計という行為を通して、人の暮らしを豊かにしたいという思いに確信が持てた言葉です。

 企画展を見終えた後、久しぶりの都内ぶらり。根津に移動し昼食。隈研吾さんが手掛けたうどん屋さんで昼食。

 そして、弥生美術館で、水森亜土展と竹久夢二展を堪能。

 最後に日本橋まで足を延ばして、東京散歩を堪能しました。これで1万3千歩ぐらいです。運動不足に、お出掛け不足が加算され、足がパンパンになりました。

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椅子を置いてみた 大きな掃出し窓のそばに なんだか居心地良さそう 見るような眺めはないけど空が見える 直接ひかりがあたってないのに 明るくて 爽やかで 清々しい 椅子もうれしそう ちょっと休憩したり 本を読んだり お茶を飲んだり そこで過ごす時間がお気に入りになった 縁側のような場所ができた - そこに在る豊かさ ささやかないい時間 いい住まいのご提案をさせていただきます -  

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