- 着物文化 -

 こんにちは。月明設計室の中込です。今回は、着物文化についてお話をしたいと思います。…と申しましても決して詳しいわけではないです。最近、洋服づくりに勤しむ妻から聞いた話に興味を覚え、今、このご時世で改めて考えるべき事のように思えたので、その事についてお話をさせていただきます。

 中原 淳一 さんをご存じでしょうか。戦後まだ間もない頃、満ち足りた生活とは程遠い、生きていく為に必要なもの、実用的なものを必要としている状況下の中で、日本の女性に夢と希望を、美しいものを見る、目を肥やし、新しい時代がやってくる事を伝える、雑誌「それいゆ」が終戦からたった一年後、発行されました。「女性の暮らしを新しく美しくする。」という理想を揚げ、中原淳一が描く女性像は、当時の女性にたくさんの夢を与えたそうです。

 中原 淳一 は1913年生まれ、1983年70歳で亡くなられています。40代後半からは病を患い、晩年は入退院を繰り返しされていたそうです。18歳の時に趣味でつくったフランス人形が認められ、その後、日本の画家、ファッションデザイナー、編集者、イラストレーターとして、活躍されました。

 中原さんは、着物にも造詣が深く、戦前、大正という時代の着物をきた女性の生活、特に自身の母親の美しい着こなしを身近に見て育ったという事が、着物への興味を覚え、母親から着物について学んだようです。ファッションデザイナーとして洋服のイメージが強いようですが、中原さんは、日本人には、やはり着物が一番似合うと言われていたそうです。

『どこの国を見ても自分の国の服装を持たない国はありません。和服を生み出した当時とはがらりと生活が変わってしまったのだから、洋服を着る事になったのは当然としても、私達が自分の国の服装をすっかり捨ててしまうのは、悲しいことです。着物は日本人のために、日本人のいろいろな条件に合わせて、長い間試して、日本人が美しく見えるように出来上がったものだから、やはり日本人は、着物を着るべきだなとつくづく思うのです。』 中原 淳一

 日本人の体形に合わせて、生まれてきたものだから、日本人が一番似合うというお話は何となくわかりますよね。

 フランス、パリ滞在中のエピソードのお話。日本人の女性と待ち合わせをした時、フランス人の彫りの深い白い顔の中、洋装が似合うと思っていた日本人女性が現れたとき、何とプロポーションが悪い事かと驚きを覚えたそうです。その後、その彼女と偶然、オペラ座で再開。その日は着物姿。黒地に白い花の着物。にこやかに笑い近寄ってきた時、彼女は少しもフランス女性にひけを取らないと思ったそうです。立ち話をしていると、そばを通るフランス女性に「美しい」と言われたり、写真を求める中年紳士もいたそうです。

 日本人には着物、欧米人には洋服が似合う理由を、その服のつくられ方、考え方の違いで次のようにお話されています。

 『欧米人の身体は、大変立体的です。だからその凹凸が美しいので、洋服は身体をおおってしまうのではなく、その凹凸の美しさを強調するように出来ているのです。別の言い方をすれば、身体の凹凸に合わせて、布を色々な曲線に裁ち、それをつなぎ合わせたものが洋服です。それに対して日本人の身体は、非常に平面的です。だから身体の曲線そのものでみると、外国人ほどの美しさはないのですが、それに着物をまとって帯をしめて、その着物からでる曲線の美しさで、女の美しさを見せようとしているのです。』 中原 淳一

 納得です。

 そして、着物がよくできていると思わせてくれたのは、下記の点です。

 深い縫代をとって織り込んでいるのは、汚れや傷んだ際、その縫代の生地を使って繕う事ができるようになっている。衿の下から半衿をのぞかせているのは、衿元にアクセントをつける為ではなく、着物を汚さない必要からきたもので、男性が背広の下にワイシャツを着るのも同じ理由で、背広を汚さないようにするためにそうなっている。袖や裾にも同様に傷んだ際、繕いやすいような施しがされていたり、一見飾りのように見れる部分にもちゃんと理由がある。長く使う事を前提に作られている事がよくわかります。

 そして着つけの大切さについてもお話をされておりました。帯や紐の位置や衿元の見せ方、しわをださない整え方。それ次第で美しさも変わる。

 …と今回はとても女性的なお話になってしまいましたが、住宅にも通じる部分がたくさんあると思います。戦後、日本が失ったものはたくさんあると思いますが、ひとつにこの着物文化も上げられるかと思います。時代の流れに逆行するような事はできないかと思いますが、大切なものを教えてくれているような気がします。これからうまく取り入れ、暮らしていけると良いのですが。

 ひとつには、日本人に合わせたもの、身体の大きさや凹凸、所作、ふるまい、生活、暮らしに合わせて、日本人だからこそ生まれてきたものという事。それも昨日今日できたものでなく、ひとつひとつ考えられた形式があって、作法がある。どうすると美しく見えるかという方法がある。日本の文化。凛とした日本人らしい文化です。そして、今、普段私たちが着ている洋服とは異なり、長く使われる事を前提にできている。ファッションという名の流行。流行は廃れるので、これからの時代にそぐわない面もあるような気がします。洋服の中にも、昔からあるオーソドックスなものは素敵なものが多い。十分今まで築いた洋装文化の中にたくさん素敵なものがある。少し高くても長く使えるものが多いので、そういうオーソドックスな洋服はいいなと思う。しっかりした視点を持つ大切さですかね。

 地に足ついた根のある暮らしをする為に、ふらふら流れていく流行だけを追い求めるのではなく、流れはうまく取り入れるぐらいの気持ちを持って、日本という場所、気候、風土、歴史、身体、生活、暮らし、文化を忘れることなく、いい精神で生きていける世界を、これからつくっていく事が大切だと思います。

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椅子を置いてみた 大きな掃出し窓のそばに なんだか居心地良さそう 見るような眺めはないけど空が見える 直接ひかりがあたってないのに 明るくて 爽やかで 清々しい 椅子もうれしそう ちょっと休憩したり 本を読んだり お茶を飲んだり そこで過ごす時間がお気に入りになった 縁側のような場所ができた - そこに在る豊かさ ささやかないい時間 いい住まいのご提案をさせていただきます -  

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